品質工学会 日本規格協会理事長賞

第6回 品質工学会 日本規格協会理事長賞(2021年)

2021年4月1日
品質工学会 審査表彰部会

授賞の背景

 [品質工学会日本規格協会理事長賞] は,品質工学に関連して広く日本の標準化活動に貢献すると考えられる成果に対し,一般財団法人日本規格協会より贈呈される賞である。 自薦ないし他薦による応募の中から,品質工学の継続的実践と普及活動をとおして,社会ないしは企業・団体への貢献が認められる個人ないしは組織体に授与するものである。
 2020年10月1日~2021年1月8日の期間に募集し,応募者に関して2021年2月21日に開催された品質工学会日本規格協会理事長賞審査委員会にて厳正な審査を行つた結果,下記団体に [第6回品質工学会日本規格協会理事長賞] を授与することに決定した。

受賞者

受賞者 細井光夫(株式会社小松製作所 正会員)
推薦者 近岡 淳 (近岡技術経営研究所)

授賞理由

 細井光夫氏による品質工学の実践と普及に対する継続的かつ精力的な取り組みは,事例研究,学会誌への投稿,品質工学の社内外への普及,組織活動など多岐にわたり,その活躍ぶりは多くの人が認めるところである。
 
1)コマツグループにおける事例研究の牽引
 コマツグループの中で現場課題に即した実務的な品質工学活用を牽引し,技術成果を獲得し事業に貢献している。また、研究の成果を積極的に外部に発表し高い評価を獲得している。
 品質工学会誌に投稿した「プラズマ切断機用トーチにおけるノズル冷却のパラメータ設計」で論文賞銀賞を受賞している。本研究はプラズマ切断機のノズル冷却水路の形状を最適化した事例であり,冷却の機能に熱のオームの法則を適用するやCAE活用の工夫を入れ,切断品質とノズル寿命を両立した技術を獲得している。
 また、品質工学研究発表大会では2014年以降6件の発表を行っている。「品質工学を用いたサーモモジュールの熱応力耐久性評価の研究」では,サーモモジュール(TEC)の吸熱性能の耐久性を従来の耐久試験ではなく機能性評価で行える可能性を見出し,その後,この研究をさらに進めることで従来の1/100の時間での評価を実現させている。このように現場の課題に対し評価の工夫で成果を獲得しており,多くの人の参考となる高いレベルの研究を行っていることが細井氏の特徴であり,高く評価される。
 さらには,品質工学会以外においても日本鋳造工学会誌へ鋳造シリンダブロックへのガス欠陥対策の事例や鋳造における品質工学の考え方の解説を投稿するなど,積極的な活動を行っている。
 
2)学会誌を通じた学会レベルアップへの貢献
 品質工学会誌の解説記事として,損失関数,学会誌の価値向上,自動車開発の生産性向上など6つの解説記事に参加/執筆している。解説記事はいずれも2017年以降に掲載されており,近年の活動の活発さが窺える。一例として解説「損失関数の話をしませんか(1)および(2)」ではオフライン,オンラインの損失関数の総括的な解説および損失関数に関する問題提起(自動車設計の欠陥、歯磨き粉粘度の損失)に対し自らの知見に基づく回答をしており,これまで損失関数に馴染みの薄い読者に対し理解と活用を促す有効な記事となっている。
 
3)品質工学活用の展開
・コマツグループ内の展開 
 コマツグループの中での品質工学活用を牽引し多方面で技術成果を獲得し事業に貢献している。コマツグループの品質工学導入は2006年でありTQC活動の一部として開始された。初年度の品質工学テーマ数は2件であったが,細井氏は2008年から品質工学の活用展開に携わり,2011年に100件,2012年以降は年20件のテーマ指導を行うまでに活用を拡大した。トータルとしてコマツ内で約200件,コマツグループでは300件以上のテーマを指導しており,文字通りコマツグループの品質工学を現在に成長させた第一人者といえる。
 現在は品質工学の実務研修(12/)や実務テーマの検討を毎月30件程度で行う体制を構築・運用し,その成果をグループ内で発表するほか,品質工学会への発表にも繋げている。これらは社内の上層部の協力を得て進めており,コマツグループ内での中核的な活動になりつつある。
 活動の成果として2010年度のオールコマツQC大会での発表や2011年度から開始した開発本部の実務研修成果発表で累計約200件の社内発表を行っている。また2016年度に切削工具コーティングのパラメータ設計で大阪工場長賞,2020年度に塗装のパラメータ設計でオールコマツQC大会金賞を受賞するなど事例の質の向上も実現している。
 
・コマツグループ外への普及 
 コマツグループの活動をグループ外に発信し評価を得ることで普及に努めている。品質工学会の企業交流会(2011,2016年度)においてグループにおける品質工学の活用展開の発表を行っている。他学会においても日本機械学会での講演「コマツの事例にみる品質工学のすすめ」(2019),油空圧技術誌への投稿「品質工学のすすめ : コマツの取り組みを参考にして」(2018),標準化と品質管理誌への寄稿「小松製作所の品質工学への取組み,導入と課題」(2011)などコマツの活動を積極的に公開している。
 これら社内活動は通常は公開を控えることが多いが,細井氏は積極的な開示を継続している。それが多くの企業・団体の参考になり品質工学の普及に繋がっている。その効果は高く評価される。
 
4)学会活動への貢献
 各地の様々な品質工学研究会に積極的に参加・発表を行い,品質工学の理解や活性化の媒体として活動している。
 計測機能研究会(日本規格協会主催),NMS 研究会,神奈川品質工学研究会に定例参加している。その他にも北陸品質工学研究会,、関西品質工学研究会,浜松品質工学研究会,さいたま品質工学研究会にも積極的に参加して議論の活性化やメンバーの知識の底上げに貢献している。
 また、品質工学会の諸活動も出版部会編集委員,広報部会,商品開発プロセス研究会,次世代経営研究会,代議員(神奈川県)など多岐にわたり担当している。それらの活動や論文投稿,発表の積み重ねとして,2020年度に貢献賞銀賞を受賞している。
 
【今後の期待】
 以上からわかるとおり,細井氏はコマツグループのみならず品質工学会全体の活動,普及に貢献をしている。今後はこれまでの事例研究の論文化に取り組むとともに,さらなる普及活動を進めることを期待する。
 また,コマツは2021年に創立100周年を迎える。この機会は品質工学の実践を推し進めコマツの業務プロセスに定着させる仕掛けをする好機である。細井氏のさらなる活躍によりコマツの品質工学がますます活性化されることを強く期待する。

お問合せ

品質工学会日本規格協会理事長賞に関するお問い合わせは,品質工学会事務局までお願いします
  品質工学会事務局 金野(こんの) 

  ・ TEL (03) 6268-9355  ・FAX (03) 6268-9350