オフライン品質工学の展望

オフライン品質工学の展望(1)

体力強化と技術力


【キーワード】
   クレームをゼロにする。
   製造原価を一層引き下げる。
   製品開発力を高める。


 企業の体力を強化する重点は営業と技術にある。技術に要求されていることの第1はクレームをゼロにすることである。これからはますます顧客の選別が厳しくなってくるであろう。このような時、クレームを発生させることは営業活動を著しく阻害する。如何なる理由があっても、またどんなにクレーム処理に努力しても営業の足を引っ張ることになるので、クレームをゼロにすることが必要である。またPL問題を考えても重大なクレームを出すと企業の命取りにもなりかねない。
 
 第2は製造原価を一層引き下げることである。コストが下げられれば企業体力がつく。コストダウンは企業の永久命題である。現在の環境は、従来からコストダウンの努力をしてきたと言ってはいられない。また原価が高いから売価を高くするという図式は、これからは成立しない。品物の価値に見合った、顧客が納得する価格でなければならず、それはメーカーの考える水準より相当低い所(割安感)にあると覚悟しなければならない。品質を下げないでコストダウンを如何に行うかは技術上の重要問題である。
 
 第3に製品開発力を高めることである。賢い顧客は本当に必要なものしか購入しない。従来から個性化ということが言われてきたが、どんなに目新しい品物でも、メーカーの興味本位で作られたような品物は売れない。真に顧客の求めているものを見通し、適時供給できるようにしなければならない。そのためにはどんな要求にも即応できる高い製品開発力(製品開発の質と早さ)を持っていることが必要となる。

クレームをゼロにする


【キーワード】
 a) クレームの出る原因は次の3つである。
   カタログ不備(全品クレーム)
   ばらつきか大きい(部分クレーム)
   使用中に特性値が変化する(部分クレーム)
 b) 機能特性がばらつく原因は次の3つである。
   個体間のばらつき(材料、作業のばらつき、設備の調整ずれ)
   経時変化(材料の劣化、摩耗による定数変化)
   使用環境の変動(温湿度の変化、入力の変動)


 品質保証は品質保証書を付けることではない。品質保証書を付けても実体が伴なわなければ品質保証になっていない。必要なのは不良品を顧客に渡さないことである。顧客の考える不良とは検査での不良品のことではなく、使ったとき機能を発揮しない品物、あるいは使っているうちに機能が低下してしまうような品物のことである。顧客は必ずしも高品位の品物を求めているわけではなく、むしろ性能の安定した品物を望んでいるのである。顧客は通常1個しか品物を買わないので、安定性が顧客が考えるばらつきの主要部分をなしている。
 
  クレームが起こる第1の原因にカタログの不備があげられる。本来、カタログにはその品物の特長と欠点を明記すべきであるのに、営業の圧力で特長のみを強調し欠点は書かないか、記してあっても目立ないようにしている。カタログを信じて購入した顧客はカタログに書いてないか、あるいは気付かなかった欠点により、期待ばずれを感じ、クレームを申し立てることになる。
 
  第2は表示値から離れた品物が出荷される(ばらつき)からである。顧客は購入した品物がカタログ通りの値で機能すると考えている。ここで、(ばらつき)の端の方にある品物を受け取った顧客は、品物が期待する働きをしてくれないのでクレームをつけることになる。顧客がうるさいのではなく、製造側が表示値から外れた品物を出荷するからである。
 
  第3は使用中にカタログ通りに機能しないことが起こるためである。製品機能の変動の原因は、製造工程で起こるばらつきの他に、使用環境の変動、劣化摩耗により機能特性が変化するからである。
 
 「製造上のばらつき」は、材料、部品のばらつき、製造設備の故障、狂い、作業者の作業のばらつきなどであるが、これらの影響を小さくしようとして、開発設計に際し、価格の高い高級な材料や部品を用いようとし、また精度の高い高級な設備を導入しようとしたり、作業者に一層の負担を強いることをする。これは明らかにコストアップにつながるし、好ましいことではない。
 
 「使用環境のばらつき」は、品物の使用中の気温、湿度、気圧、電圧、姿勢などの変化による影響である。ユーザーは品物の使用目的に応じて多様な環境で使用するが、カタログで使用制限をしていないのなら、あらゆる使用条件で表示通りの機能特性が得られるものと考える。カタログ通りの機能が出なければクレームとなるのは当然であろう。開発設計の性能確認を標準条件で行って、どんなに良い値が得られてもあまり意味がない。使用中の環境条件の変化を加味した開発設計の方法が必要なのである。
 
 「劣化、摩耗によるばらつき」は、構成する機構部品が摩耗して寸法が変化したり、或いは構成材料が保管中、使用中に経時変化で劣化、疲労し変質することによる目的特性の変化である。材料、作業のばらつき、使用環境の変動、劣化による変化を、開発設計の段階で誤差因子として十分加味して、機能特性を安定化しておくことが大切で、これによってクレームをゼロにすることが可能となる。これを達成する方法としてオフライン品質工学の「パラメータ設計」が考案された。

製造原価を一層引き下げる


【キーワード】
   従来は高級な部材を用いて高品位の品物を作ろうとしてきた。
   安価な部材(ばらつきが大きい部材)を使って、ばらつきの小さい安定した品物を作る。
   許容差の適正化をはかる(狭めすぎるとコストアップとなる)。


 今までの開発設計の考え方は、できるだけ高級な材料、部品を用い、高級なシステムを応用して高品位の品物を作ろうとしてきた。しかしこれは明らかにコスト高となる。コストを下げる最強の方法は入手可能な最も安い材料、部品を用いて、安定して機能を発揮する品物の開発設計を行うことである。安い材料、部品、簡単なシステムではレベルも低くばらつきも大きくなると考えがちであるが、設計パラメータを選択することにより、安定性が良く寿命が長くしかも品位の高い品物とすることかできる。
 コストが高くなるもう一つの原因は公差にある。公差を設定しないか公差が広すぎると、ばらつきが大きくなり、クレームか発生する。そこで設計者は、クレームが出ないようにするため、なるべく狭い公差にしようとする。公差が狭いとコスト高となるが、妥当な公差を求める方法が与えられていないので、誰も狭すぎることをチェックすることができない。設計者自身で公差の適正さを調べることができる方法を与えねばならない。これが「許容差設計」である。

製品開発力を高める


【キーワード】
   多特性、多因子の同時検討をする(見切り発車をしないこと、後から設計変更をする余裕はない)。
   クレームおよび不良による手戻りを出さない。
   目標値を達成するというやり方で何度も同じ製品に手をつける様なことをしない。
   開発設計段階で誤差因子(部材のばらつき、経時変化、使用環境の影響等)を導入し、機能性の設計(機能の安定化)を行う。


 開発設計を遅らせている最大の原因は設計変更である。どの品物でも数個以上の目的特性を持っているのが普通で、それらすべてを良好な状態とするためには材料、構造などの設計要素および一連の長い製造工程の各工程要素を適正化しなければならない。
 従来のやり方は、最も重要な特性項目とそれに関与する設計要素、工程要素との関連を調ベ、適正なパラメータを求め、逐次検討を進めて行く方法をとってきた。しかし、十分な調査、検討か済まないうちに、開発期間がなくなってしまい、検討打ち切りの見切り発車となることが多かった。
 これが工程不良、クレームを招き、設計変更の一因となっているのである。このような事態とならないためには、必要な特性項目と各検討要素を一斉に取り上げ、直交配列表を利用したパラメータ設計を行うのが良く、それにより開発設計を効率的に進めることができる。
 また、クレームによる設計手戻りを起こさないためには、高品位の品物を作るより、安定な品物を作ることが肝要なのである。材料を含めた製造上のばらつき、多様な使用環境、経時変化による劣化などの影響で目的特性が変動しないような品物とすることか重要で、そのためには、開発の初期から目的特性がばらつく原因を考慮しておけば、クレーム発生による設計変更を無くすことが出できる。即ち、誤差因子(部材のばらつき、使用環境、経時変化)の導入がクレームをなくし開発速度を上げるキーボイントなのである。
 同じ品物を何度も開発設計部門が手をつけるもう一つの原因は、目標値を設定し、その目標を達成しようとして技術検討を行うからである。顧客の要求、競合他社との競り合いから、品質特性に開発目標値が設けられ、それを充足する品物を開発しようとする。ここで目標値が達成されると安心し、開発か終わったと考えがちであるが、苦心して目標値がクリアできても、それほど間を置かずに顧客あるいは営業から目標値切り上げの要求が出て来て、その品物の水準向上のために再度、開発設計の手をつけることになる。目標切り上げにより同じ品物に何度も手をつけることを防ぐには、動特性を利用する群開発が有用である。
 目的特性を縦軸に取り、目的特性のレベルの上下に関与する、操作容易な設計要素あるいは工程要素を信号因子とし横軸に取り、図1のような関係が得られるならば、その直線範囲内で各種グレードの品物を随時作ることができる。即ちそのシステムの限界調査が必要なのである(図2)。ここで信号因子のβを上げることができれば、限界の向上が可能となる。それ以上の要求がいつ頃出て来るかを見極めて、次のシステムの開発に移れば手戻りはない。