品質工学会 学生賞

2010年 学生賞

2010年3月12日
品質工学会 審査部会

授賞の背景

 これからの品質工学の持続的な発展を図るには大学など教育機関における品質工学の取り組み活動が重要である。この活動を支援し,教育機関における品質工学の存在感を高めるために,優秀な学生の研究に対する賞「品質工学会学生賞」を新設した。
 応募研究の中から,審査部会にて厳正に審査を実施し,下記2件の研究を選定した。初めての賞であり,審査前は学生賞であるから,学生ということで割り引いて選定することも予想していたが,受賞した研究は,学生であることを抜きにして,品質工学の研究として研究テーマと方法,考察など一般の平均以上の研究の質である。
 学生賞は,現時点での評価だけでなく,将来の期待を込めて評価している。受研究をさらに進め,より大きな成果を上げることを期待する。あわせて,受賞者が将来の品質工学を担う人材となることも期待する。

受賞研究

題 目 省エネ発光体の評価方法の研究 ‐機能性材料の形成条件の最適化‐
受賞者 市川伸彦(学生会員)(富山高等専門学校 射水キャンパス 専攻科 2年)
指導教員 山本桂一郎
研究の種類 大会発表
(参考) 第17回品質工学研究発表大会(2009年)にて発表,品質工学研究発表大会会長賞受賞
発表番号;No.94「省エネ発光体の評価方法の研究(第一報)-機能性材料の形成条件の最適化-」
共同研究者;山本桂一郎*1,水谷淳之介*1,早川幸弘*1,高田賢治*2,府和直子*2*1富山高等専門学校 正会員,*2(株)ハウステック 正会員)

題 目 工程検査における動作音の評価に関する研究
受賞者 舘 明博(学生会員)(日本大学大学院 生産工学研究科 2年)
指導教員 矢野耕也
研究の種類 卒業研究
(参考) 第17回品質工学研究発表大会(2009年)にて一部を発表
発表番号;No.102「波形データを用いたメカ検査工程の検討」
共同研究者;矢野耕也*1,賀澤秀樹*2,楠本剛史*2,星野隆臣*2,小林勇造*3,大平 悟*3,松崎昌弘*3,山澤秀樹*3*1日本大学 正会員,*2アルパインプレシジョン(株) 正会員,*3アルパインプレシジョン(株) )

研究の概要

 受賞研究の研究論文は学会誌に投稿され編集中であり,いずれ詳細を読むことができるが,応募の際に受賞者より提出された概要を以下に記す。

「省エネ発光体の評価方法の研究 ‐機能性材料の形成条件の最適化‐」 市川伸彦
 
 近年,市場は環境配慮や省エネルギーなどのキーワードに関連する商品を求めている。そのような中で,クリーンエネルギーの発光体である蓄光材料が注目されている。電源や配線を必要としない蓄光材料は,自身が吸収した光エネルギーを蓄え放出することができる。維持費がかからず,二酸化炭素や窒素酸化物といった環境汚染物質も排出しないため,経済的で省エネルギーの面からも優れているといえる。また,供給される光は太陽光や蛍光灯などさまざまであることから,地震や台風などの災害時の非常党としての役割,建造物や船舶の夜間におけるステップ等の危険部位のマーカーとしての応用が期待されている。
 しかし,蓄光材料はレアメタルを使用することから非常に高価である。したがって,極力少ない配合量で長時間安定に発光できる成型品を得る必要がある。低コストで高輝度長時間発光できる製品が開発できれば,これまで採用できなかった薄暗い場所への応用が可能となり,用途の拡大が期待できる。本研究では,成型品の輝度安定化及び蓄光材料単体での入出力の関係と同等の特性が得られることを理想と考え,基本機能と計測方法について研究した。そして,L18直交表に制御因子を割りつけてパラメータ設計を行った。
 L18直交表に基づき実験を行った結果,従来の条件より優れた成型条件を見出すことに成功した。発光状態が終了するまでの長時間の測定ではなく,初期の輝度及び減衰の様子を計測することで短時間での評価が可能になった。さらに,成型作業時に生じるばらつきも評価することができた。しかし,利得の再現性が得られていないことから,基本機能と誤差因子についての再検討が必要である。
 今後,損失関数を用いて低コストでの製品開発を行う。また,蓄光機能と発光機能を同時に評価できるシステムの構築及び画像処理法による評価方法について研究を進め,さらなる低コスト超高輝度成型品へ挑戦していく。

「工程検査における動作音の評価に関する研究」 舘 明博
 
 本研究は,車載用オーディオ機器(以下,車載用機器)の異常音検査工程を対象とし,車載機器より生じる動作音を騒音レベル値,振動レベル値という特徴量に変換し,その波形パターンに対してRT法を用いた解析を行った。
 従来の検査工程では,車載機器の動作音は検査員の感覚量に依存して行われてきた。しかし,音には真値がないため検査員ごとにばらつきが生じ,そのため不合格品が合格品と判断され誤って市場に出荷される場合がある。そこで,車載機器が動作する際に生じる,音圧を補正した騒音レベル値および振動レベル値に変換し,RT法の対象としてその連続量を波形パターンとして評価した。
 騒音レベル値において,値が小さい時が車載製品の理想的な状態であったことから望小特性の単位空間を作成して解析を行った。しかし,データの採取環境や高音域の情報が不足していることが考えられたため,新たに振動レベル値を特徴量とし,騒音レベル値と同様に望小特性の単位空間を作成した解析を行った。また,対象の特性が多項目であったことから,識別精度,識別力の向上を目的にマルチRT法を行った。2種の特性(騒音レベルおよび振動レベル)は,共にレベル値の大きさと共に特徴量も大きくなるため,RT法の適用により波形パターンの変化に応じて距離が大きくなるという評価を可能とした。
 結論として,車載機器より生じる動作音の程度が距離の大きさで判断できることになり,これまで定性的だった検査工程に一定の基準を設けることができた。今後,製品識別力向上が期待できると同時に,この方法論を検査手法として取り入れることにより,異常音検査工程の省力化並びに自動化が可能になると思われる。
 他分野への応用として,音のように真の値が無い対象においても特徴変換により数値による評価が可能であり,また,波形を対象としていることから,電流値による検査工程や楽器の評価などへの汎用性があると思われる。

お問合せ

学生賞に関するお問い合わせは,品質工学会事務局までお願いします
  品質工学会事務局 中山,金野(こんの) 

  ・ TEL (03) 6268-9355  ・FAX (03) 6268-9350