公益財団法人 精密測定技術振興財団 品質工学賞

2021年 論文賞 金賞・銀賞

2021年4月14日
品質工学会 審査表彰部会

授賞の背景

 公益財団法人精密測定技術振興財団 品質工学賞 論文賞表彰審査委員会(論文賞表彰審査委員長および表彰審査委員 計27名)は,2020年213日に論文賞審査会を開催し,2019年および2020年の品質工学会誌に掲載された研究論文17件について厳正に審査を行った。その結果,下記の論文3編を2021年度公益財団法人精密測定技術振興財団品質工学賞論文賞(金賞1件,銀賞2件)として選定した。

受賞論文

金賞 題 目 鋼材溶接継手を対象とした継手剛性のSN 比と疲労寿命のSN 比の関係に関する基礎検討(Vol.28 No.6)
受賞者 津村秀一(海上技術安全研究所 正会員)

銀賞 題 目 無人化工場を実現するためのJIS Z9090 に基づく計測能力検証と計測信頼性向上活動(Vol.28 No.4)
受賞者 麹谷幸久*,中村高士*,畠山 鎮* (*YKK(株) 正会員 )

銀賞 題 目 組み立て精度作業の能力評価(Vol.28 No.3)
受賞者 青木規泰*1,矢野 宏*2
(*1 (株)松浦機械製作所 正会員,*2 応用計測研究所(株) 正会員)

選定理由

金賞:鋼材溶接継手を対象とした継手剛性のSN比と疲労寿命のSN比の関係に関する基礎検討(Vol.28 No.6)

 
 船舶や橋梁などの大型溶接構造物において、溶接部に疲労破壊が発生すると甚大な損害が発生することになる。溶接部の疲労破壊防止は旧くからの重要技術課題であり、これまで大型の溶接構造部の疲労強度試験には膨大な費用と時間が投じられている。
 筆者は、疲労破壊試験に代わる高効率な評価方法を構築するにあたり、引張試験による金属材料評価技術を炭酸ガスアーク溶接技術評価に応用することを試みた。評価過程においてSN比の算出方法から慎重に検討した結果、引張試験によるSN比と疲労破壊試験によるSN比の間には良好な一致が見られることを確認し、本評価の有効性を検証している。この結果により、溶接構造部の評価には、時間とコストがかかる疲労強度試験に代えて、引張強度試験を利用した機能性評価が適用できる見通しを得た。
 本研究は先行して取り組まれた多くの研究の成果を踏まえた発展研究の位置づけとなるが、金属材料の機能性評価技術が溶接技術評価に適用可能であることを具体的に検証したことは本研究の大きな成果である。また、研究過程が論文中に丁寧に記述されており、溶接技術評価に取り組む研究者にとって大いに参考になる論文構成となっている点も審査委員から高い評価を得た。

銀賞:無人化工場を実現するためのJIS Z9090に基づく計測能力検証と計測信頼性向上活動(Vol.28 No.4)

 
 金型加工ラインの加工結果を高精度測定するために新たに導入した画像測定機は、自動計測を実現可能である一方で、従来の顕微鏡による手動測定に比べて測定結果のばらつきが大きく、金型加工ラインの完全自動化を進める上での大きな課題であった。
 こうした課題に対し、筆者らはパラメータ設計に手堅く取り組むことで画像測定の精度向上を果たすとともに、測定精度を維持管理するたにJIS Z9090付属書に則り測定機の校正方法を社内標準として定めた。
 この取り組み内容にはそれほど目新しさは感じられないが、測定条件最適化から標準化までを一連のフローとして構成し、実直に加工ラインに実装拡大した活動がきちんと報告された例は少なく、本研究の具体的な取り組み内容は多くの企業の参考になる。
 筆者らは、無人化工場実現の鍵は高精度な自動測定技術にあるとしており、本研究事例はその基盤を成すものである。様々な無人化工場が広く普及すれば、国内の労働生産性を大幅に向上させる可能性がある。今後の展開に注目したい。

銀賞:組み立て精度作業の能力評価(Vol.28 No.3)

 
 マシニングセンタの組立作業は、部品の組み付けと精度出しを同時に行いながらの作業となるため、その組立作業者には極めて高度な技能が欠かせない。しかし、そうした技能を習得するには長期にわたる訓練が必要であり、熟練作業者の技能の引き継ぎ問題は社内の慢性的な悩みとなっている。
 こうした問題に対し、筆者らは熟練作業者の経験知を引き出して組立工程を最適化するために、バーチャル評価による仮想実験を実施した。バーチャル評価は、人の経験知や感性に基づいて評点付けすることで総合評価を行う手法である。L36という大型の直交表を利用することで、精度出しに重要な16種類もの工程因子の最適化を短期間のうちに実現した。熟練者の技能に頼らざるを得ない高精度な組立工程の最適化を、実際に工程を組み替えながら評価するのは現実的ではない。こうした課題には仮想評価が大きな効果を発揮することを具体的に示した点は注目に値する。
 さらには、仮想評価を通して精度出し結果が不安定になりやすい作業を抽出し、組立手順を入れ替えることで、作業者の熟練度の影響を受けにくい工程を実現したことで、技能の引き継ぎ問題を軽減した点も技能工による生産工程を持つ多くの企業の参考になり、高く評価できる。論文題目が研究内容の広さを十分に表現していない点は惜しまれる。

お問合せ

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  品質工学会事務局 金野(こんの) 

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