公益財団法人 精密測定技術振興財団 品質工学賞

2023年 論文賞 金賞・銀賞

2023年4月1日
品質工学会 審査表彰部会

授賞の背景

 公益財団法人精密測定技術振興財団 品質工学賞 論文賞表彰審査委員会(論文賞表彰審査委員長および表彰審査委員 計24名)は、2023年2月18日に論文賞表彰審査会を開催し、2021年および2022年の品質工学会誌に掲載された研究論文18編について厳正に審査を行った。その結果、下記の論文を2023年度公益財団法人精密測定技術振興財団品質工学賞論文賞(金賞1件、銀賞2件)として選定した。

受賞論文

金賞 題 目 熱式質量流量センサの開発・生産プロセスに対する品質工学の適用(Vol.30 No.3)
受賞者 岡野浩之 ((株)堀場エステック 正会員)

銀賞 題 目 金型補修のための肉盛溶接のバーチャル設計と機能性評価(Vol.30 No.1)
受賞者 寶山靖浩 (リョービ(株) 正会員)

銀賞 題 目 ナノ秒パルス放電プラズマオゾナイザにおけるオゾン生成濃度の最大化(Vol.29 No.3)
受賞者 小笠原明彦*1,4 岩﨑明暉*2 市耒竜也*2 坂本琢馬*2 王 斗艶*3 浪平隆男*3 河田直樹*4 福島祥夫*4
(*1 熊本大学産業ナノマテリアル研究所 正会員 *2 熊本大学大学院 *3 熊本大学産業ナノマテリアル研究所 *4 埼玉工業大学先端科学研究所 正会員)

選定理由

○金賞:熱式質量流量センサの開発・生産プロセスに対する品質工学の適用(Vol.30 No.3)

 流量センサの安定生産を実現すべく,パラメータ設計を活用して開発設計の最適化,生産管理条件の最適化を同時に達成した取り組みである。センサの目的機能であるガス流量に対するセンサ出力の比例関係を開発設計,生産工程の両方の共通評価軸とすることで一貫性のある最適化結果を獲得した。さらに要因効果図を活用してセンサの安定生産実現に重要な管理項目を生産現場と事前共有し,ばらつきつき低減策の現場導入を決定した。低減策の導入は工程費用の増加を招くが,それを上回る品質損失低減効果が得られることを損失関数によって示して生産現場の理解を得てトータルでの損失低減を実現している。加えてセンサの検査工程にはMTシステムを導入し,その精度向上にも挑戦している。
 ひとつひとつの取組みには特段の目新しさはないが,品質工学をベースにした一貫性のある開発生産マネジメントの有効性を如何なく発揮した好事例である点が高く評価された。また,表彰審査委員からは,取り組みの流れ全体を丁寧に論じており,これから品質工学を学ぶ初学者にとっても大いに参考になること,取り組み内容にはさらなる検討が必要な箇所も散見されるが,そうした議論を行うための教材資料としても有用との意見も示された。

○銀賞:金型補修のための肉盛溶接のバーチャル設計と機能性評価(Vol.30 No.1)

 鋳造金型にクラックや浸食などの劣化が生じた場合,肉盛溶接による補修が行われるが,どうしても肉盛溶接品質は溶接技能者のスキルに大きく左右されてしまう。本研究は,技能者の肉盛り溶接技術に対する経験知を確認し,組織知化することを目的に取り組まれたものである。まずは,熟練の技能者が特に重要と考える各種溶接条件について,溶接部門,メンテナンス部門の技能者を集めてバーチャル評価を実施したところ,溶接部門とメンテナンス部門で要因効果が逆転している溶接条件があることが判明した。次に,評価結果の食い違った条件についてテストピース評価を追加実施し,いずれの評価結果が妥当であったかを判定している。バーチャル評価の結果を受けて技能者間で効果認識の異なった条件に絞ってテストピース評価を実施する手順は合理的で,大掛かりな実験をせずに肉盛溶接に対する経験知を効率よく獲得し,組織知として共有することに成功している。
 本論文は,バーチャル評価とテストピース評価を巧みに組み合わせることで,技能伝承の効率を大幅に向上できることを具体的に示した好事例である。技能伝承,組織知の獲得に悩む多くの現場において,大いに参考になる取り組みであることが高く評価された。

○銀賞:ナノ秒パルス放電プラズマオゾナイザにおけるオゾン生成濃度の最大化(Vol.29 No.3)

 従来のオゾン生成方式の諸問題を解消する新たな方式としてナノ秒パルス放電プラズマ法の先行研究に取り組み,エネルギー効率が従来法より優れていることを確認した。しかし,一般に先行研究の成果は,それに続く実用化研究段階において安定して再現しないことが多く,研究の手戻りを生じやすい。そこで筆者らはそうした手戻りを未然に防ぎ,早期の実用化を実現すべく,品質工学を活用して新方式のオゾン生成条件最適化に取り組んだ。
 最適化の進め方は非常に精緻に検討されている。理論研究に基づく理想機能の設定,評価特性の決定,信号因子,誤差因子とその水準設定の考え方を丁寧に論じており,研究論文としての完成度は極めて高い。パラメータ設計の結果から選定した最適条件はまだ十分な利得再現性には至っていないが,結果の考察も緻密に行ない技術課題を明確にしている。表彰審査委員からは本研究の続報に期待する意見が多く出された。
 基礎研究と実用化研究をしっかりと区別したうえで基礎研究段階から実用化研究を見越して目指すべき理想機能,信号因子や誤差因子を整えて取り組むことの重要性を強く主張する本論文は,まさに品質工学による研究開発マネジメントの在り方を具体的に提案しており,高く評価できる。技術者はもちろん,先行研究,基礎研究に取り組む研究者にとっても大いに参考になるものである。

お問合せ

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  品質工学会事務局 金野(こんの) 

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